新しい薬が世の中に出るまでには、多くの工程があり、時間もかかります。見た目は同じ錠剤でも、その裏側には科学的根拠と綿密な検証の積み重ねがあります。安全で効果的な治療薬を届けるためには、数々の検証が欠かせません。
本記事では、その中で重要な役割を担う試験のひとつ「薬物動態試験」について、概要や重要性をはじめ、方法・流れなどを解説します。
製薬に関心のある方、医療の安全性や仕組みに興味がある方は、ぜひご一読ください。
薬物動態試験とは?
投与された薬が体内でどのように吸収・分布・代謝・排泄されるのかを調べる試験です。英語では「ADME(Absorption, Distribution, Metabolism, Excretion)」と呼ばれ、薬の作用メカニズムや副作用のリスクを把握するうえで欠かせない試験になります。
試験の重要性
薬物動態試験は、安全かつ効果的な薬の開発において極めて重要です。なぜなら、薬がどのように体内で作用し、どのように排出されるかを把握することは、副作用の予測や投与量の設定に直結するからです。例えば、体内に長く残りすぎる薬は副作用のリスクが高まり、逆にすぐに排出されてしまう薬は十分な効果が得られない可能性があります。
さらに、肝臓や腎臓の代謝・排泄機能が異なる高齢者や小児に対しても、安全に投与できるかを見極めるうえで、薬物動態試験でのデータは不可欠です。このように、薬物動態試験は医薬品の「安全性」と「有効性」を科学的に裏付ける、非常に基礎的かつ重要な工程なのです。
薬物動態試験の方法・流れ
開発段階によって方法は異なり、初期段階では健康な志願者を対象とし、被験薬の基本的な動態や食事による影響、反復投与による変化などが検証されます。遺伝的要因によって代謝に差が出る可能性がある場合は、特定の遺伝子を持つ被験者の選定や排除が行われることもあります。
開発が進むと、実際の患者を対象にした試験へと移行し、疾患の重症度や併用薬などによる影響も加味して検証されます。さらに承認申請後や市販後に、性別や年齢、生活習慣など多様な要因が薬物動態に与える影響を確認するため、追加試験が実施される場合もあります。
試験の種類
薬物動態情報を臨床で得るアプローチは大きく 「標準的な薬物動態試験法」と「母集団薬物動態試験法」 に分かれ、開発段階・薬剤特性などに応じて使い分けられます。
標準的な薬物動態試験法
被験者に被験薬を単回あるいは反復投与し、その後、あらかじめ設定されたスケジュールに従って血液や尿、必要に応じて糞便を採取し、体内動態を評価する試験です。採取された試料から薬物およびその代謝物の濃度を測定することで、薬の吸収・分布・代謝・排泄に関する詳細なデータが得られます。
単回投与試験では、薬の初期挙動や代謝の様子を把握するために、健康な成人や患者に一度だけ薬を投与し、血中濃度の変化や尿・糞便中の排泄量を追跡します。生物学的利用率や食事の影響、血漿蛋白との結合率などもこの試験で評価されることが多く、得られたデータは後の開発段階の基礎資料として用いられます。
反復投与試験では、実際の臨床使用を想定したスケジュールで薬を複数回投与し、体内にどの程度薬が蓄積するか、定常状態がいつ達成されるかといった点を確認します。単回投与で得られたデータと比較することで、薬物動態の変化や投与量の適正化に関する有用な知見が得られます。
母集団薬物動態試験法
通常の薬物動態試験とは異なり、少ない採血回数で多くの被験者からデータを収集する方法です。被験者への負担を最小限に抑えつつ、実際の臨床環境に近い条件下で薬物動態を把握できる利点があります。
この方法では、試験設計の段階から「薬物動態スクリーニング法(シングル・トラフ・スクリーン、マルチプル・トラフ・スクリーン、フル・スクリーンなど)」が導入され、薬剤の投与形態や試験の実施可能性、解析によって得られる情報の適合性などを考慮して最適な手法が選択されます。
得られたデータからは、集団全体における薬物動態パラメータの代表値(平均や中央値)だけでなく、個体間や個体内のばらつき、さらには薬物動態に影響を及ぼす因子(年齢、体重、併用薬など)とその効果の大きさも明らかにすることが可能です。また、薬物濃度と治療効果・副作用との関連性(PK/PD解析)を把握する上でも有用です。
メディカル・アート・ラボラトリーについて
1990年の設立以来、30年以上にわたり医療分野における検体検査を中心に事業を展開してきた企業です。血液検査に関する豊富な知見と技術力が強みで、検査精度の高さと医療機関との連携を通じて、患者の安全と医療サービスの質的向上に貢献してきました。
当社の事業は、検体検査業務にとどまらず、治験サポートや被験者募集など多岐にわたります。検体検査の分野では、「ブランチシステム」によって検査技師・装置・試薬のトータルマネジメントが可能。また「FMS受託システム」により、医療機関の検査運営を支援しています。
治験分野にも積極的に取り組んでおり、生物学的同等性試験や薬物動態試験、さらには過剰摂取・長期安全性・機能性確認といった食品臨床試験にも対応可能です。また、被験者募集支援サービス「治験GO!」を展開し、試験の円滑な実施を支える体制も整えています。
治験GO!について
治験参加者のサポートを専門とする機関です。参加者の安全を最優先に考え、適切な情報提供とサポートを行っています。
主なサービス
●最新の治験情報の提供
●参加者向けの無料相談
●治験に関する正確な情報提供とサポート
「治験の方法や流れを詳しく知りたい」といったご質問にもお答えしておりますので、治験への参加を検討している方は、お気軽にお問い合わせください。
薬物動態試験について
薬物動態試験は、新しい医薬品の安全性や有効性を確認するうえで欠かせない重要なプロセスです。体内における薬の吸収・分布・代謝・排泄の動きを科学的に把握することで、適切な投与量や服用方法の設計につながります。
メディカル・アート・ラボラトリーでは、豊富な経験と体制を活かし、薬物動態試験をはじめとした多様な治験検体測定業務を行っております。ご興味がございましたらお気軽にお問合せください。